【文系・学振採用体験記シリーズ:学振を通した学びと成長】①澁川幸加(DC2)編

 

学振採用者に協力してもらい、これから学振を出そうとしている院生が抱える質問に回答していただくとともに、採用者自身の学振を通した学びを振り返ってもらう企画です。

学振の概要や他の体験記へのリンクは↓記事を御覧ください。

 

hegs-rakuyu.hatenadiary.org

 

 

この記事ではD3の澁川の体験記を紹介します。

自己紹介

D3の澁川です。

 

採用年度:令和2年度
申請資格:DC2
書面合議・面接審査区分:社会科学
書面審査区分:教育学およびその関連分野
小区分:教育工学関連
専門分野:高等教育
研究課題名:深い学習を促す講義映像・事前学習・対面授業を有機的に連関させた反転授業設計の提案

 

申請しようか悩み中の人向け

1・DCに申請しようと思ったきっかけは?(検討段階で起こした行動があればそれも答えてください)

DC1・DC2の申請で共通していることは、生活費と研究費を確保できる魅力です。

修士のときは働いていないことへの後ろめたさから博士課程への進学を悩んでいたこともありました。DCに採用されると生活費が工面できることは大変魅力的でした。

検討段階ではDC1のときに2つのことを行いました。

まず、博士課程へ進学をする覚悟を決めることです。旧友や恩師に不安を打ち明け、相談に乗ってもらいました。最終的に、自分がやりたいと思うことを信じてやれば良いということ、研究が好きと思えることは向いていることだという言葉をもらい、背中を押してもらいました。

次に、「学振の生活費だけでは足りない」という意見をネットで見かけていたので、本当に生活ができるのか計算しました。

結果、京都で暮らす分には問題なさそうでした。(東京だとなかなか大変だと思う…)

 

2・申請書に記入できる業績が少なすぎて,出しても採用されないのではと二の足を踏んでいます。

結論から申し上げると、出したほうがいいです。

今年から業績の欄が見直され、「研究に関する自身の強み」や「今後研究者としてさらなる発展のため必要と考えている要素」など、「研究遂行力の自己分析」を記述する欄に変わりました。大学内・外での経験や実務経験など、様々な強みをアピールする余地が増えたので、ぜひうまく活用してください。

単に業績数があるといいわけでもないと思われます。DC1では業績が無くとも採用された事例を聞きました。また、説明会などで学振の審査員を経験されたことのある先生のお話を伺っても、業績だけを見て可否を決める人はほとんどいらっしゃらないようでした。

そのため、申請書全体を仕上げていくことで補えうる悩みだと思います。

とにかく出してみましょう!出さないことには始まりません。

 

これから申請書類を書く&書いている人向け

3・申請書の構想に要した時間と,実際の執筆に要した時間はどれくらいですか?

構想と執筆を往還していたので区別は難しいですが、DC1のときは200時間以上は費やしたようにおもいます。

DC1では、3月から構想して書けるところから書いて埋めていきました。(着手が遅かったと思います。)時間をかける割に筆の進みが悪く、GWに学振検討会を通じて様々なフィードバックをもらってから、焦りながらギア全開で修正に取り組んだ記憶があります。

DC2のときは反省を生かして1月から草案に取り掛かりました。去年の申請書がたたき台となる分、執筆の大変さは軽減され、去年不採用だった原因分析や文章の精緻化に集中することができました。時間は曖昧ですが150時間以上費やしたように思います。

1日10時間執筆する日もありつつ、普段はなるべく毎日執筆することを心がけていました。〆切前は夢の中でも申請書を書くくらい考え続けていました。

 

4・どの学問分野で申請しましたか?また、その分野で申請する際の注意点があれば教えてください。

小区分は教育工学にしました。私の研究テーマである反転授業は「教育工学らしい」内容なので迷わなかったです。

近年の教育工学分野における採用者の傾向を見ると、開発研究が多い印象を受けます。

研究テーマによっては小区分に悩むかもしれませんが、過去に採用された研究題目を参考にすると良いと思われます。

 

5・個人的に一番ハードルになった要素や、負担であったことを教えてください

 答えとゴールのない作業をすること、それに耐えるメンタル維持が一番大変でした 笑

 学振では「これから」の話を説得的に述べる必要があります。

自分は何をしたいんだろう?それって意味あるの?誰のためになるの?それで本当にやりたいことがやれると言いきれるの?…など自問を重ねることは際限がなく、また、苦しみを伴うことです。

さらにその産みの苦しみを経て紡いだ言葉を必要最小限の文字数へ洗練化する作業も、際限がないですし、時間がかかるものです。

 

また、私はマネジメント能力が低い点も苦労しました。

DC1のときは申請IDや評価書の依頼がギリギリになり先生へ迷惑をかけてしまったり、

〆切10日前にコーヒーをPCにこぼして修理→MacからWinの代替機へ移行して書式崩壊、やり直し→Macが戻ってくるもまた書式が崩壊、やり直し→提出2日前からファイルを開くたびに書式がちょっとずつ崩れる謎のバグが生じる(Wordすら開けないときも多々あり) …という災難の連鎖に苦しみました。笑

申請書の作成では1行を捻出することに大変苦労するので、書式崩壊は咽び泣くような悲劇でした。

全てはゆとりのある行動をしなかったことに起因していたので、DC2のときはコーヒーを置く場所を変えるなど(笑)「必ずなにか起きてしまう」前提で物事を進めました。

 

クラウドは惜しみなく契約しましょう!(Dropboxが好きです。)

 

6・申請書の作成をすすめていく中で,どのような人に協力を依頼したり、どのような資料を参考にしましたか?また,役に立ったことがあれば教えてください。

まず、知り合いの学振採用者に連絡し、申請書を共有してもらいました。

他分野の申請書も見させていただけたのですが、この経験がとてもよかったです。専門的な内容はわからずとも言っていることがわかる、「誰にでもわかる」申請書を共有していただけたからです。

作成中は、共有していただいた申請書をなめるように読みました。フォントサイズや図表の作り方、ロジックの展開など、読むたび新たな発見がありました。

 

次に、研究室の先輩や大学の研究員、先生方に添削を依頼しました。

ロジックで不十分な点から表現が曖昧な点まで、様々な粒度のフィードバックを頂きました。依頼した先輩や先生方のフィードバックなしには仕上がらなかったと思います。

 

役に立ったことは、「猿でもわかるように書く」「隠れた前提を飛ばさず説明して書き進めていく」ということです。前者はシンプルですが、大変難しかったです。他分野の申請書がとても参考になりました。

後者は先輩からのフィードバックで学んだことで、論文執筆にも通じる重要なことだと思います。

 

なお、学振を執筆するための書籍(岩田さんも紹介している大上先生著書)やブログを参考にしました。

個人的には、KURAが提供している情報や説明会が参考になりました。

www.kura.kyoto-u.ac.jp

 

大学内外で提供されている情報と、採用された申請書(実物)を多く見ることを推奨します。 

 

採用後のようす

7・採用以降の生活について教えて下さい。

まず、研究費と生活費をいただけることが本当にありがたいです。機材や洋書、事典など高い買い物をできることには感謝しかありません。

金銭面以外では、事務処理の経験を積めました。経費処理の流れを知ったり、研究遂行費管理に気を配ったり(Zaimで「研究遂行費」や「立て替え払い」のカテゴリを作り管理していました)、論文の納期が年度をまたがないか意識するなど(笑)実務的なことを学べました。

また、研究で行き詰まったときに申請書が立ち戻る原点となっています。

申請書に時間をかけた分、それは(採用の如何に関わらず)その後の自分を導く材料になるので、いま執筆している人は必ず次に繋がると信じて、がんばってください!

 

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以上、D3の澁川でした!