【文系・学振採用体験記シリーズ:学振を通した学びと成長】③岩田貴帆(DC2)編

学振採用者に協力してもらい、これから学振を出そうとしている院生が抱える質問に回答していただくとともに、採用者自身の学振を通した学びを振り返ってもらう企画です。

学振の概要や他の体験記へのリンクは↓記事を御覧ください。

 

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この記事ではD2の岩田さんの体験記を紹介します。

自己紹介

D2の岩田貴帆です。この4月から学振DC2に採用いただきました。

採用年度:令和3年度
申請資格:DC2
書面合議・面接審査区分:社会科学
書面審査区分:教育学およびその関連分野
小区分:教育工学関連
専門分野:大学授業研究

研究課題名:学生の自律性を促す自己評価力を育成する教育方法の開発と効果検証


1度目の挑戦(M2の5月申請):令和2年度DC1→一次審査で不採用。
2度目の挑戦(D1の6月申請):令和3年度DC2→二次審査(コロナの影響で面接なし)で採用。

 

申請しようか悩み中の人向け

1.DCに申請しようと思ったきっかけは?(検討段階で起こした行動があればそれも答えてください)

制度の存在を知って(M1に入学する直前くらい)、すぐに出すことを決めました。日本の大学院生は基本的に授業料を払う立場ですが、研究することによって大学院生のうちからお金をいただける仕組みがあるというのはありがたいなと思いました。M1の5月に、当時M2~D2の先輩方が申請されるにあたっての申請書の検討会が実施されていて、勉強のために見学させてもらいました。そのことで、具体的なイメージをもつことができました。


2.申請書に記入できる業績が少なすぎて,出しても採用されないのではと二の足を踏んでいます。

それでも出すことをお勧めします。後述するように、申請書を書くことを通して、大学院生として成長することができるからです。また、業績が少ないことの理由が「すぐに研究成果が出るわけではない難しいテーマに挑んでいる」という理由の場合には、難しいが意義のあるテーマであること自体を丁寧に申請書で表現する、という方法もあると聞いたことがあります。
業績が少ないことの理由を自分で振り返ってみて、自分の力不足やリソース不足、ということが明確になるなら、今後の研究生活の見直しをすればよいわけです。このような場合でも、「自分がどこからきてどこへ行こうとしているのか」を言語化しようとして初めて「自分がいまどこにいるか」を深く認識することができると思いますから、「申請書を書こうとしてみる」ことは大学院生にとって重要だと思います。


これから申請書類を書く&書いている人向け

3.申請書の構想に要した時間と,実際の執筆に要した時間はどれくらいですか?

M2のときにDC1に申請した際は、1月から構想を開始して、2月3月は思うように時間がとれず、4月5月は頑張って毎日取り組みました。仮に1日平均2時間として、合計で120時間くらい、という感じですかね。で、DC1は全然ダメでした。

D1のときにDC2に申請した際は、2月から構想を開始して、毎週「執筆会」を田中くんと開催することで、忙しくても強制的に時間を作っていました。2~5月の間、ほぼ毎日取り組んでいたと思います。育児も始まっていたので、時間は細切れで、娘を抱っこで寝かしながらスマホで書いたりもしました。仮に1日平均1.5時間とすると、合計で180時間くらいといったところでしょうか。で、DC2は、二次採用となりました。


4.どの学問分野で申請しましたか?また、その分野で申請する際の注意点があれば教えてください。

1度目の挑戦:社会科学の高等教育学分野。
2度目の挑戦:社会科学の教育工学分野。教育工学という学問分野の範囲は広いのですが、その分、審査してくださる先生お一人お一人のお持ちである「教育工学とはこのような分野だ」というイメージも異なる可能性があると考えました。そこで、自分の研究テーマのどのあたりが教育工学的なアプローチなのかが伝わるように心がけました。

 

5.個人的に一番ハードルになった要素や、負担であったことを教えてください。

「自己評価力について研究することの意義」をわかりやすく書くことです。

「反転授業」「高大接続」「PBL」「主体的な学修態度」と聞けば、「ああ、あれね」とイメージがわくと思いますが、「自己評価力」と聞いても、ほとんどの方がピンとこないと思います。
でも自分はそれが大事だと心の底から思っていて、頑張ってその意義を申請書に書いて人に見せては全く伝わらず、とても悔しい思いをしました。
二次採用をいただいたDC2の申請書でも、それがうまく伝えられているとはいえない文章だったと思いますが、1度目のチャレンジよりは、わかりやすく書けるようになったという自信はあります。

わかりやすく書くために僕が気を付けたことは、「読んでいる人の認知状態を想定する」ということです。
例えば、「自己評価力の意義」を伝えるために、読んでいる人の既有知識と関連付けて書く、ということを心掛けました。自己評価力といきなり言われても誰もイメージがわかないと思いますが、「知識を活用して取り組む課題」とか、「自律的な学習」という用語から論をスタートすれば、審査してくださる先生方の既有知識と関連付けながら論を展開していけると考えました。

「読んでいる人の認知状態を想定する」ということを学振申請書を書くことを通して徹底的にトレーニングしたおかげで、論文などのライティング力がかなり上がったことは間違いないと思います。

 

6. 申請書の作成をすすめていく中で,どのような人に協力を依頼したり、どのような資料を参考にしましたか?また,役に立ったことがあれば教えてください。

参考になる資料については、大上(2016)『学振申請書の書き方とコツ DC/PD獲得を目指す若者へ』が最も体系的にまとまっている書籍だと思います。あとはネット検索で出てくるブログ記事や、大学主催のイベントなど、アクセス可能な情報源については、ひとつ残らず見たと思います。

 

※大上 (2016) は最近、改訂版が出たようです。

 

そして、一緒に申請書を書いている田中くん・研究室の先輩やOBの先生方・他大学の大学院生や先生など、合計7人の人に事前に申請書類を見てもらい、意見や助言をいただきました(2回目のチャレンジ)。


1回目のチャレンジでは、ver1.0についてA先生にいただいた意見を反映させてver2.0を作り、ver2.0についてB先輩にいただいたことを反映してver3.0・・・ということを繰り返していくうちに、どんどん内容が膨れ上がっていったり、方向性が定まらなくなってしまったり、という失敗がありました。
そこで2回目のチャレンジでは、「同じバージョンの原稿について多くの人から意見をもらう」という方針を最初に決めました。

具体的には、「4/30に初稿を完成させるので見てください」、と複数人の先輩・先生に予め依頼しておいて、5/1の陽が上るまでに送信して、GW中に添削してもらいました。
そして、改善したバージョンを5月下旬ころにもう一度複数人に見てもらって、仕上げる、という流れにしたのです。
こうすることで、添削してくださった方の意見に振り回され過ぎず、できるだけ客観的な視点から自分の申請書の改善点を見出し、最後は自分の責任で直す、ということができたと思います。

また、失礼にならないように、同じバージョンのものを複数の方に添削してもらっていることを予め先輩や先生に伝えることも忘れないようにしました。


まとめ

一次審査で採用が決まるほどの申請書を書けたわけではないことからもわかるように、僕はまだまだ修行が必要な大学院生です。
申請書を書く作業は非常に辛い時間でしたが、「自分がいまどこにいるかを知る」「伝わるように書く」トレーニングを通して大きく成長できたと思います。

学振特別研究員の制度には課題も多く指摘されているところですが、仕組みがあること自体は大変ありがたいことであり、また申請することが成長の機会になるという点でも有益と感じています。

今回のブログ企画の記事をご覧になった大学院生の方が、学振申請書と格闘する時間が少しでも有意義なものになれば幸いです。

 

 

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以上、D2の岩田さんからのご報告でした。

岩田さん、ありがとうございました!